沙羅双樹

心配事から気を紛らわすという目的ではこの映画を選んだのは失敗だったかもしれない。静かに描かれている物語を観ていると自分の心の深いところに沈み込んでいくような感じだった。それ自体嫌な気持ちでは、ない。
「ならまち」に暮らす家族の静かな物語。
路地の間、家族の住む家、町並みのそこかしこに陰影があり、匂いが感じられる。
人々の日々の営み。
心に深い傷を抱えつつ、暮らしている人々の静かな優しさ。
物語を通してほとんど音楽はなく、生活のおとが聞こえるのみ。
ただ、祭りの日だけは違った。
ハレの日の勢い、情熱、熱気に満ち溢れていた。
そして翌日からはまた静かな生活に戻る。
でも、息子を、兄弟を失った悲しみを抱えて生きる家族のもとに新しい命が誕生する。
失ったものは決して戻らないけど、新しい希望の到来とともに未来へと向かって此処で暮らしていく。
じんわり、いい話だった。
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